概要 -“解体して売る”―エクセルをめぐる異色のM&A
今回は、過去に旧村上ファンドに100%子会社化された事例として、2020年に株式交換により、旧村上ファンドの子会社となったエクセルの事例を紹介する。
かつて エクセル は、半導体や電子部品を取り扱う独立系のエレクトロニクス商社として事業を展開していた。メーカーと顧客の間に立ち、部品供給や技術サポートを行う、いわば「産業の血流」を担う存在である。
しかし現在、同社は独立した上場企業ではない。
2020年以降は 加賀電子 グループの一員となり、同じ電子部品商社という業態を維持しながらも、大手グループの一事業会社として再出発している。
では、なぜ一つの上場企業がその姿を消し、グループ企業として再編されるに至ったのか。
その背後にいたのが、いわゆる「旧村上ファンド系」と呼ばれる投資主体である。
旧村上ファンドが果たした役割
この案件の特徴はシンプルだが強烈だ。
– 株式を取得し影響力を強める
– 最終的に完全子会社化する
– 企業の中身を「事業」と「資産」に分解する
– それぞれを最適な相手に売却する
つまり、単なる「買収して成長させる」のではなく、 企業を一度“解体”し、価値を再配分することでリターンを得る という戦略が取られている。
エクセルはまさにこのプロセスを経て、不動産などの資産は切り出されたうえで、事業部分のみが加賀電子に引き継がれ、結果として、一つの企業の事業・資産が別々の行き先を持つという極めて象徴的なM&Aとなった。
また、後述をするが、エクセルは本件取引の数年前より、事業環境の悪化を理由の一つとして事業のパートナーとしてのスポンサーの選定を自力で進めていたが、数年間進捗がないところに旧村上ファンドが株を買い増して、旧村上ファンドがその動きを支援(主導ともとれる)する形で、新スポンサーである加賀電子を連れて来たことにおいては、業界再編的な役割も果たそうとしたのかもしれない。
アクティビストとは
ここで重要になるのが「アクティビスト(物言う株主)」の存在だ。
アクティビストとは、企業の株式を取得したうえで、
経営改革 、 資本効率の改善 、 事業売却や再編 、などを求め、企業価値の向上を積極的に働きかける投資家を指す。
中でも旧村上ファンド系は、日本におけるアクティビストの代表格として知られる。
その特徴のひとつとして、 「企業の中に眠る価値を“分解して顕在化”させることに長けている」といえる。
過去の事例を見ても、 余剰資産の活用(不動産・現金)、非効率な事業の切り離し、 経営への直接関与、といった手法を通じて、企業価値を引き出してきた。
そして本件エクセルでは、その手法がさらに一歩進み、 「会社そのものを解体し、パーツごとに売却する」という形で実行された点に、大きな特徴がある。
旧村上ファンドの子会社化まで-“出口を決めてから買う”戦略
今回の旧村上ファンドのエクセルの子会社化におけるポイントは、あくまで 子会社化そのものが最終目的ではなかったという点です。
むしろ旧村上ファンドは、 「売却先を見据えたうえで子会社化を実行した」と理解する方が、実態に近いといえます。
出発点-エクセル自身によるスポンサー探索(2015年頃〜)
エクセルは、2019/12/9のシティインデックスイレブンスとの株式交換契約締結と加賀電子との経営統合に関するお知らせの開示資料の中で、2015年頃から、経営統合に関して積極的に検討をしていたものの、当社の業績では相手を見つけることは極めて困難であったと示されている。
背景としては、エレクトロニクス業界において、エクセルの売上先に当たる最終製品の日系セットメーカーや日系部材サプライヤーが、中国など新興国企業の参入による競争激化や製品勢力図の急速な変化、日系エレクトロニクス大手メーカーの経営再編及び事業方針の変更とそれに伴う商流変更の動きといった外部環境の悪化があげられる。
また、それをうけてエレクトロニクス商社業界においても再編が急速に進んでおり、加賀電子による富士通エレクトロニクス株式会社の株式取得(子会社化)などがあるなど、エクセうにおいても業界再編の影響は避けれない状況と、エクセル自身は認識をしていた。
そのような状況下でも、既存ビジネスの強化や新市場・新分野の開拓などに取り組みつつ、他社との様々な提携など進めていたが、エクセルの主力事業である中国スマートフォン向け液晶販売が中国の成長鈍化により低迷していったこと、主要仕入れ先であるシャープの事業方針変更をうけた海外ビジネスの縮小などにより、2019年上期に営業利益経常利益段階での赤字着地をうけた。
このような業界における事業環境の悪化とそれによる再編加速と、エクセル自身の業績の悪化を背景に、単独での経営統合を模索していたとされている。
しかし、足元業績悪化もあり先述の通り、単独での統合への道は開示ベースでの進捗が見られなかった。
旧村上ファンドの関与-スポンサー探索の“加速装置”
この状況のなかで関与をしたのが旧村上ファンドである。
先に述べたように、本件で特徴的なのは、旧村上ファンドが単なる株主であったことや、親会社となることにとどまらず、スポンサー候補の探索・選定プロセスに関与して、状況を変化させた点である。
開示資料によると、2019年3月頃より、エクセルは大株主グループと関係の深い村上世彰氏と、エクセルの企業価値向上に向けたディスカッションを重ね、エクセル側から村上氏に対して、統合候補先の紹介を依頼し、村上氏より5社程度に、エクセルとの統合を打診して、2社から前向きな反応を受取ることができた。
その後、エクセルが当該2社で面談を実施した結果、エレクトロニクス商社の業界再編としての統合に前向きな点や豊富な人材を抱える店や、事業分野でのシナジーを見込める点から、2社のうち加賀電子を候補先とすることが決定。
その段階において、旧村上ファンド(シティインデックスイレブンスとその親会社のオフィスサポート)にて議決権ベースで約40%弱の株を保有していたことから、加賀電子によるエクセルの子会社をゴールとして、エクセルと加賀電子はもちろん、加賀電子をエクセルに引き合わせた旧村上ファンドも交えて交渉をスタート。
当初より、”価格”が論点となる中で、加賀電子はあくまで事業自体を譲り受けることに関心があるなかで、エクセルの非事業用資産を切り出して事業・事業資産のみを加賀電子が取得するスキームに決定。
一方で、エクセルとしては、エクセルの企業価値や株主共同の利益を損なわないスキームを構築するうえで、加賀電子に事業と事業用資産を移管したのちに、非事業用資産のみが残るエクセルに株主を残存させず、本経営統合のタイミングで一般株主に対してエクセルの本源的価値に照らして公正な対価を支払うことが重要と検討。
であるその結果、協議の上、一旦、旧村上ファンドシティインデックスイレブンスが現金を対価とする株式交換により100%子会社化したうえで、非事業用資産を旧村上ファンドが取得して、事業のみとなったエクセルを加賀電子が取得することとなった。
特に、本件興味深い点は、加賀電子とシティインデックスイレブンスが、シティインデックスイレブンスがまだ、エクセルの株式をすべて取得する株式交換が完了していない段階においてエクセルの株式譲渡契約を結んでいた点だ。
当然に株式交換がエクセルの株主総会で承認決議されない限りにおいて実行されることはないものだが、あくまでシティインデックスイレブンスが、子会社化をゴールとするのではなく、エクセルを整理したうえで加賀電子に売却することを前提とすることを明示している。
なぜ株式交換だったのか
シティインデックスイレブンスがエクセルを子会社化するスキームは、株式交換であった。
一般的に上場企業を対象会社とするM&Aにおいては、公開買付(TOB)に加え特別支配株主による株式売渡請求もしくは株式併合によるスクイーズアウトによる二段階の手法が取られる。
背景としては、株式交換が株主総会での特別決議が必要である条件に対して、すでに株式交換に賛同する与党票としての旧村上ファンドが約40%近くの議決権を保有しており、特別決議の承認がほぼ確実であったことがひとつ。
また、株式交換によると、TOBが応募株式のみを買い取れるのに対して、株式交換は応募状況に左右されずに確実にすべての株式を買い取れて100%子会社化できる点だ。これにより二段階による買収と比較して迅速に取引を実行でき、ファンドとしては加賀電子に売却までの期間短縮・IRRの最大化につながる。
次章からは、エクセルの”解体”と再編プロセスを確認する。
子会社化によるエクセルの解体-“現物配当”で切り分けられた価値
本章からはいよいよ、旧村上ファンドの100%子会社化された後の解体プロセスに入っていく。
その第一歩として実行されたのが現物配当である。
本件における現物配当
本件における配当は現金ではなく、特定の資産を株主に交付するものであり、この時点での株主はシティインデックスイレブンスのみである。
また、本件において現物配当された資産は、不動産や投資有価証券といった非事業用資産である。
通常配当は、株主還元の文脈で理解されることが多いが、すでに100%子会社化がなされたエクセルにおける現物配当は、資産をそのままグループ内で自由に移動できる取引として使われたと理解できる。
また、これは、エクセルの企業価値を構成する事業価値(本業から生じるキャッシュフローに基づく価値)と不動産や有価証券などの非事業用資産を別々の企業に分ける行為であり、事業資産のみとなったエクセルの株式が旧村上ファンドから加賀電子に譲渡され、非事業用資産は旧村上ファンドが保有継続することを踏まえると、それぞれ最適なオーナーのもとに帰属させるための準備としての現物配当であったと言えよう。
加賀電子への事業売却-“決まっていた出口”が実行される瞬間
本章では、旧村上ファンドから加賀電子へのエクセル株式の譲渡による、エクセルの加賀電子への売却をみていく。
売却の前提はすでに整っていた
加賀電子への売却は、あくまで、シティインデックスイレブンスが加賀電子に売却することによるものだが、すでにご認識いただいている通り、シティインデックスがエクセルの株式をすでに所有し支配権を保有する前より、加賀電子への売却は前提として整備されていたのが、本件の特徴のひとつだ。
特に、対象会社のエクセルも含めて、旧村上ファンド、加賀電子による基本的な合意が形成されていた。
もっと言えば、加賀電子が新スポンサーとして選定されたプロセスは、旧村上ファンドの独断ではなく、エクセルが関わっていた。
加賀電子のメリット
前章にて旧村上ファンドが現物配当により、非事業用資産を切り出したことは記載したが、これは加賀電子にとってもPMI過程の対象外者の整理の効率化の観点でメリットが有る。
通常、買収後、対象会社において、資産負債の整理や不要資産の売却が実施されるが、本件すでに旧村上ファンドにより非事業用資産の売却がなされていた。
また、買収後に資産整理・不要資産の売却を実施するとなると、買収時点において不確実性(時間軸・価格)が高く、仮に旧村上ファンドが介在しなかったときと比べて、買収価格にマイナスの圧力が発生するなどの影響もあったと考えられる。
アクティビストによる圧力をうけて、会社からの非事業用資産を切り出し資本効率を改善する上場企業も増えている中で、本件のような業界再編を進める中で、例えば、業界再編対象会社において非事業用資産があることが統合の交渉を難しくさせている可能性があるのであれば、本件における旧村上ファンドの果たした役割は小さくはなかったと言えるかもしれない。

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