はじめに
2025年10月3日、株式会社ダイセキは、連結子会社である株式会社ダイセキ環境ソリューションに対する株式公開買付(TOB)の実施を発表しました。
本件は、いわゆる「親子上場の解消型TOB」であり、ダイセキが同社の全株式を取得して完全子会社化し、上場を廃止することを目的としています。
環境リサイクルを中心とする両社グループは、これまで別々に上場する形を取ってきましたが、事業の複雑化・スピード経営の重要性が増す中で、グループ経営の最適化と意思決定の迅速化を目指し、非上場化を選択した形です。
買付価格は1株あたり1,850円で、直前終値比約55%のプレミアム。
少数株主にも十分配慮した価格水準とされています。
本記事では、本TOBについての全体像やその背景などを案内しています。
関係者とアドバイザー
本件は、親子上場の解消を伴う取引であり、利益相反の可能性が高いため、双方が独立した助言者を選任しています。
| 区分 | 関係者 |
| 公開買付者(親会社) | ダイセキ |
| 対象会社(子会社) | ダイセキ環境ソリューショ |
| 公開買付者側 フィナンシャルアドバイザー(FA) | SMBC日興証券 |
| 公開買付者側 法務アドバイザー | シティユーワ法律事務所 |
| 公開買付者側 税務会計アドバイザー | AGS FAS |
| 対象会社側 フィナンシャル・アドバイザー(FA) | ブルータス・コンサルティング |
| 対象会社側 法務アドバイザー | 森・濱田松本法律事務所 |
両社が独立した助言体制を整えたことにより、利益相反の最小化と手続の公正性を確保しています。
ダイセキ環境ソリューションの事業と非上場化の背景
事業概況
ダイセキ環境ソリューションは、1996年にダイセキのエンジニアリング部門を母体として設立。
現在は以下の事業を展開しています。
- 汚染土壌調査・対策事業:調査から浄化までのワンストップサービス
- 資源リサイクル事業:廃石膏ボード・PCB廃棄物処理、バイオディーゼル燃料製造
- 新領域:廃プラスチック・古紙リサイクル分野(杉本商事・杉本紙業の子会社化による拡大)
環境ビジネスのなかでも、「土壌・廃棄物のリサイクル+コンサルティング型サービス」を強みとしています。
業界環境
産業廃棄物処理業界は、環境規制の強化により、
- 処理のトレーサビリティ化、
- 再資源化・ゼロエミッション対応、
- ESG経営対応
などが求められる時代に入りました。
中小業者が多い業界の中で、技術力・資本力・ネットワークを一体的に活用できるグループ体制が、競争優位の源泉となっています。
非上場化の必要性
一方、ダイセキ環境ソリューションは、上場子会社であるがゆえに、
- 親会社ダイセキとの間で利益相反構造が生じる
- 経営資源の最適配分が制約される
- 上場維持コスト(開示・監査・株主総会等)が増大する
といった課題を抱えていました。
ダイセキとしては、「グループ全体の最適経営」を実現するため、完全子会社化によって、
- 意思決定の迅速化
- 顧客・技術・人材の一体運用
- M&A戦略の機動化
を図る必要があったと説明しています。
TOB価格決定までの交渉経過
ダイセキと環境ソリューションの間では、約4か月にわたる交渉が行われました。
| 時期 | イベント |
| 2025年5月中旬 | ダイセキ、完全子会社化を検討 |
| 2025年6月6日 | ダイセキ、完全子会社化を検討 |
| 2025年6月~7月 | 双方、アドバイザリ選任 |
| 2025年7月4日 | ダイセキ環境ソリューションが特別委員会設置 |
| 2025年7月下旬~9月上旬 | ディーデリジェンスの実施 |
| 2025年8月29日 | 第1回提示:1,475円(+21%プレミアム) →特別委員会により「低すぎる」と回答” |
| 2025年9月11日 | 1,575円に引き上げ→なお低いとの回答 |
| 2025年9月18日 | 1,655円の提示→なお低いと判断 |
| 2025年9月22日 | 1,720円の提示→なお低いと判断 |
| 2025年9月25日 | 1,770円の提示→ほぼ妥当であるが1,870円を要請 |
| 2025年9月29日 | 1,850円の最終提示(+55%のプレミアム) |
| 2025年9月30日 | 対象会社が賛同の方針を通知 |
| 2025年10月2日 | 両社取締役会で正式決議・応募推奨の公表 |
| 2025年10月3日 | 公開買付届出書の提出 |
こうした粘り強い価格交渉の結果、市場平均を上回るプレミアム水準での妥結となりました。
今後のスキームと上場廃止の流れ
現在の株主構成(2025.10時点)
| 株主 | 株数 | 所有割合 |
| ダイセキ | 約9,056,640株 | 53.9% |
| 一般株主 | 約7,754,000株 | 46.0% |
| 自己株式 | 約16,000株 | 0.1% |
TOBにより、一般株主から買付者であるダイセキが株式を取得を予定
買付予定下限数は、2,067,500株(12.3%)と設定しています。
買付後のスクイーズアウト
TOB成立後は、株式併合の手法でのスクイーズアウトを予定しており、ダイセキが対象会社の100%親会社となり、上場廃止となる見通しです。
手法としては以下2つの手法を検討しています。
株式売渡請求
本公開買付により、公開買付者が所有する対象者の議決権の総数が対象者の総株主の議決権の90%となり、特別支配株主となった場合には本公開買付の決済完了後に速やかに対象者の株主全員に対してすべての対象者株主を売り渡すよう請求(株式売渡請求)する予定です。
株式売渡請求において、対象者株式1株あたりの対価として、本公開買付価格と同額尾金銭を売渡株主に対して交付する予定です。
また、譲渡制限株式については、その割当契約書において、譲渡制限期間中に、株式売渡請求に関する事項が対象者の取締役会にて承認された場合、売渡請求の効力発生日の前営業日の直前時をもってこれにかかる譲渡制限を解除されるとされています。
株式併合
本公開買付によって、公開買付者が対象者の議決権90%以上を確保できなかった場合、株式併合の手段がとられます。
公開買付者は、対象者株式の併合を行い、公開買付者以外の対象者株主の所有株式数を1未満の端数となるように株式併合を行います。公開買付者以外の株主については、その端数の合計数を対象者又は公開買付者に売却し金銭の交付を受けることとなる見込みです。
このように、本公開買付に応募せず端数株式の売却による金銭の交付をうけた場合でも、本公開買付に応募した場合と同じ額の金銭の交付を受けることが可能である見通しです。
買付価格の妥当性
本件価格(1,850円)は、以下のプロセスで検証されています。
- 第三者算定機関による株式価値算定
- ダイセキ側:SMBC日興証券
- 環境ソリューション側:プルータス・コンサルティング
→ DCF法、株価法、類似会社比較法で分析 - 独立特別委員会による答申
- 全員一致で「公正な条件」と判断 - プレミアム水準
- 終値1,196円に対し +54.7%
- 過去6ヶ月平均株価1,144円に対し +61.7%
→ 一般的な親子上場TOB(30〜50%)を上回る水準
必要資金と調達方法
本件TOB対価総額は、買付対象株式数が7.75百万株に対して、TOB価格の1,850円を設定しているため、143億円を想定しております。
また、買付代金143億円以外にも、公開買付代理人に支払う買付手数料85百万円とその他(公開買付開始広告についてのお知らせ掲載費など)10百万円を想定しています。
よって、総額145億円程度を想定しています。
本公開買付とその後のスクイーズアウトについて金融機関からの調達は想定しておらず、すべて自己資金でまかなう予定です。
まとめ
本件TOBは、環境リサイクル業界における親子上場解消の象徴的事例といえます。
「環境創造企業グループ」としてのブランドを統一し、資源循環・脱炭素社会に対応する事業展開を加速させる狙いが明確です。
また、独立した特別委員会の設置や複数回の価格交渉など、手続の公正性を担保するプロセスも十分に踏まれており、少数株主保護の観点からもバランスの取れた内容といえます。
今後はTOB成立後に株式併合を経て完全子会社化される予定であり、
ダイセキグループは、より機動的な経営体制のもとで、次の成長フェーズに進むことになります。


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